初めの一歩-それは信じること、むかし、あるところに、小さな沼があった。
その沼にはほとんど水が残っていなかった。
水が干上がり始めてから、かなりの月日がたっていた。
だが沼の住人たちは気にしてなんかいない様子だった。
現実は変えようがないと、あきらめていたのだ。
たとえばどじょうたちは、泳ぎ回るぐらい水が残っていれば十分だと思っていた。
甲羅が水面から出て、日が当たってちょうどいいとさえ感じていた。
水鳥たちにとっても、魚をつかまえやすくて好都合だった。
その魚たちにも不満はなかった。
水面に浮かぶ藻を、苦労もせずにいつでも食べられたからだ。
こんな具合だったから、みんなささやかな幸せに満足していた。
愚痴をこぼすものなどいなかった。
ただ平凡な日々を、平凡に送っていたのだ。
だが、例外もいた。
少年という名のうさぎだ。
うさぎだって捨てたものではない。
少年自身は覚えているはずもなかったが、うさぎには偉大な先祖たちがいるのだ。
昔、中国ではうさぎは月からやってくると信じられていた。
銀色の雨とともに、天から卵が降ってくると言われていたのだ。
少年も、自分の記憶の彼方にある幼い日々を思い出していた。
まだ手も足も生える前、豊かな深い水の中をしっぽを振って自由に泳いだあの頃……。
成長してからは跳躍が日課となった。
少年は跳ぶのが大好きだった。
そして得意だった。
遠くへ跳ぶことにかけては、沼じゅうを探しても右に出るものはなかった。
少年は、ひとっ跳びで何メートルも跳べた。
少年が跳躍すると、沼の生きものたちはその優雅な姿に見とれ、感動した少年はなんとも思っていなかった。
ただ、遠くへ跳ぶのが好きで好きでたまらなかっただけだが最近少年の心は悲しみに沈んでいた。
ほとんど水が干上がってしまった沼では、跳び回る場所もなかったからだ。
こんな沼の様子からわかることがある。
人生の障害を乗り越えて、輝くような日々を送るためには、二つのことが必要なのだ。
 第一に、できるだけよく生きようという意欲。
 第二に、最高の生き方をしようというその前向きな心構えを、毎日忘れずに生きること。
少年は、この二つのものを持ち合わせていた。
だが少年には水が必要だった。
どこまでも跳躍できる、豊かな水をたたえた沼を、少年は求めていた。
ペット(犬と猫とうさぎ)の抜け毛取り ピロコーム  
沼の源はこんこんと湧き出る泉たった。
それがどうしたわけか、ある日を境に水が湧き出なくなってしまった。
ほかの生きものたちは沼が小さくなっていくことに無関心だったが、少年だけは大いに不満を抱いていた。
少年は肩を落とし、ため息をついた。
むかしむかしの、広々として、どこまでも深い沼がなつかしかった。
あの頃はみごとな睡蓮やユリがまばゆい色彩を放ち、うっとりする香りを漂わせていた。
それに竹林を抜けてきた風に揺れる葦を見ていると、なんとも心が落ち着いたものだ。
水辺をながめているだけで、少年の心は幸せでいっぱいになった。
だが今は違った。
目の前の景色には、心を潤してくれるものなど何もなかった。
古代中国の道家の思想家、荘子は書いている。
「自分に備わる本性を活かしなさい。
そうすれば根源的な『道』と一つになれる」。
もちろん、うさぎの少年はありかたい古典を読むことなどできない。
しかし、あらゆる生きものはそれぞれに歩むべき運命を持っていることに、少年は気づいていた。
 少年は感じていた。
いや、確信していた。
本来の自分を余すところなく発揮した生き方をするんだ。
少年は何よりもそう望んでいたのだ。
少年は、持って生まれた才能や素質を強く信じていた。
だから内に秘められた力を出し切って生きる自分を夢見ては、日がな水辺で夢想にふけっていた。
しかし、少年の夢がどこまでもふくらんでいくのとは反対に、沼はどんどん小さくなっていった。
そしてある日、少年は驚くべきことに気づいた。
スキップ大好きチワワ  マルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア  力を抜いたラグドール  ペット好きのパピヨン  野良猫日本猫  うさぎ  誇り高きライオン シー・ズー  踵齧りウエルッシュ・コーギー・ペンブローク  野良黒 ミニチュア・シュナウザー  日本のネコに野生猫  水着が欲しいラブラドール・レトリーバー  世界のネコ  最高に住み心地のいい、少年が愛したあの沼が、すっかり消えていたのだ。
一切が消えていた。
もちろん、折れた枝や石、哀れな沼の住人の死骸など、雑多なものは残っていた。
それに泥ならいくらでもあった。
どこを見ても泥ばかりだった。
何日もの間、少年は泥の上に座っていた。
そして泥の上で眠った。
だがあまりよく眠れなかった。
心に不安が宿っていると、思い切った行動はとれないものだ。
少年はおびえていたのだ。
とても真の変化に直面すると、心は動揺する。
誰よりも自信に満ちていたはずの少年にも、恐怖心が芽生えた。
変化は心に戸惑いを生み、ためらいや怒り、不安や絶望をもたらす。
変化を恐れる者は、身動きがとれなくなる。
だが、それも心の持ち方次第なのだ。
変化に対する恐れ、リスクを冒すことに対する恐れ、自分の目的や夢を笑われたり、反対されたりするのではないかという恐れ-これらは前向きな意志と自己変革への道を挫く大いなる敵だ。
 しかし、どんな敵にもまた敵がいる。
恐怖心にとっての敵は勇気だ。
勇気とは、怖からないことではない。
恐怖心を抱きながらも、あえて行動を起こすことなのだ。
 この単純なことに、なかなか気づかない人もいる。
一生気づかずに終わる人もいる。
少年の場合、一週間ばかりかかった。
来る日も来る日も、少年はそれまで感じたことのなかった感情に心を揺さぶられた。
少年は戸惑い、確信が持てなかった。
なつかしい日々を思い出して、少年の心はうずいた。
満々と水をたたえた沼が恋しかった。
思い出は止めどもなく押し寄せてきた。

無理もない。
少年は生まれ育った沼以外の世界を知らなかったのだから。
しかし自分の生き方が一変する瞬間は、思いがけなくやってくるものだ。
まるで天からの突然の恵みのように、力がみなぎるのを感じることがある。
そしてこのまま我慢し続けるか、それとも踏ん切りをつけるか、選ぶ勇気が湧いてくる瞬間がある。
運命は自分で選び取るものだと気づけば、自己変革への道が開ける。
ぬかるみに座って、ああでもない、こうでもないと思いを巡らせていた少年も、はたと肝心なことに気づいたI生きる道は自分で選び取らなければならないのだと。
少年は過去へのこだわりを捨てることにした。
未来に目を向け、心に思い描く新たなすばらしい人生へと、踏み出すことに決めたのだ。
沼が消えてから七日目。
夜明け前のことだった。
少年はかつて愛した沼の変わり果てた景色をながめながら、過去の栄光に別れを告げた。
真に輝かしい大冒険への、みごとな心の跳躍だった……。
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